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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2561号 判決 1977年11月30日

控訴人 一場六郎

右訴訟代理人弁護士 奈良岡一美

被控訴人 山口友次

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金一一五万五、〇八四円及び内金九二万〇、〇八四円に対する昭和四七年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(請求減縮)。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに金員支払いを命ずる部分につき仮執行宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は、「控訴人は、昭和五一年八月九日被控訴人から本件損害賠償債権のうち金二万九、三二〇円の弁済を受け、さらに昭和五二年五月四日和解成立前の被控訴人有限会社上野運送店ほか二名からそのうち金一〇〇万円の弁済を受けた。よって、前記控訴の趣旨記載のとおり請求を減縮する。」と述べた。

《証拠関係省略》

理由

一、本件事故の発生

控訴人が左記交通事故により受傷したことは当事者間に争いがない。

1  発生時 昭和四五年一〇月二二日午前八時二五分頃

2  発生地 荒川区東日暮里三丁目一七番八号先路上

3  事故車 甲 普通貨物自動車(足立き二、九二八号)

運転者 宇佐美行夫

4  事故車 乙 軽貨物自動車(足立て二、五六〇号)

運転者 藤岡唯男

5  被害者 控訴人(事故車乙に同乗中)

6  態様 交差点出合頭の衝突

そして、《証拠省略》を綜合すると、控訴人は本件事故により左第一一、第一二肋骨骨折、頸椎、腰椎捻挫の傷害を受けその治療のため高田整形外科病院に昭和四五年一〇月二二日から同年一一月二七日まで入院したほか、同月二八日から昭和四六年一月六日まで通院し、その間胸痛、頸部痛、腰痛の症状があったこと、右一月六日には経過良好で一応治癒との診断を受け以後通院をやめたが、その後同年二月二〇日頃から前記症状が再発したので、控訴人は再び通院治療をはじめ、昭和四六年二月二二日から昭和四八年二月七日までの間前記高田整形外科病院ほか五か所の病院あるいは整骨院に通院し、左第一一、一二肋骨骨折、頸椎、腰椎捻挫、陳旧性胸椎、肋骨骨折、胸椎骨折後遺症等の病名で治療を受け、その通院治療の実日数は三〇〇日近くに達することが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

二、責任原因

被控訴人が事故車乙の運行供用車であることは当事者間に争いがないから、本件事故につき同人は自動車損害賠償保障法第三条による損害賠償責任を免れない。

三、損害

(一)  治療費

《証拠省略》によれば、控訴人は前記高田整形外科病院に入院中及び昭和四六年一月六日まで通院中の治療費として金三五万三、八〇〇円を、同年二月二二日以後高田整形外科その他の病院等への通院による治療費として金一七万六、一二三円の支払を要したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

ところで、前掲証拠によれば、控訴人は、前記高田整形外科病院において、いちおう治癒、後遺障害なしの診断を受けて昭和四六年一月六日かぎりで通院を止め、高英工業株式会社に勤務したが、再び胸痛、背痛を感じて同年二月二二日から同年六月末まで同病院に通院し、引続き前記各病院等に通院し治療を受けたこと、右各病院等における控訴人の主訴は腰痛、胸背痛であるが、右各病院の診断書における控訴人の傷病名は必ずしも一致せず、陳旧性胸骨肋骨骨折、肋骨骨折、肋間神経痛、胸椎骨折後遺症、第六第七、八胸椎椎間板症等さまざまであって、主として控訴人の訴に基づく診断であり、レントゲン撮影により確認されていないものもあり、事故後一年以上を経過しており、事故当初の診断である左第一一、一二肋骨骨折、腰椎捻挫の悪化を示す明確な証拠はないこと、一方控訴人は本件事故発生の約三か月前である昭和四五年七月頃原病院において全身痛、腰痛等の症状で筋肉リウマチの病名の診断治療を受けていたこと、同人は前記高英工業株式会社で作業中、突然胸背痛を感じたことが認められる。

以上の事実と当審における鑑定嘱託の結果とを綜合すると、昭和四六年一月七日以後の控訴人の症状は、本件事故による傷害と関係はあるが、すべて本件事故に起因するものとは認め難く、その後の通院、治療による控訴人の損害と本件事故との相当因果関係は二分の一程度と認めるのが相当である。従って、被控訴人が控訴人に対して賠償すべき治療費は、前記高田整形外科病院における入院中及び昭和四五年一一月二八日から昭和四六年一月六日までの通院治療に要した金三五万三、八〇〇円とその後の各病院等への通院治療費金一七万六、一二三円の二分の一である金八万八、〇六二円の合計金四四万一、八六二円となる。

(二)  入院雑費

前記のとおり控訴人の入院日数は三七日であり、その間一日当り少くとも金二〇〇円合計金七、四〇〇円の入院雑費を要したものと認あるのが相当である。

(三)  休業損害

《証拠省略》によると、控訴人は昭和四五年九月三日頃から被控訴人方に雇傭され一か月金五万円の収入を得ていたところ、本件事故により事故当日から昭和四六年一月一四日まで休業を余儀なくされたこと、そして同月一五日から同年二月二〇日まで三七日間、高英工業株式会社で稼働し金七万六、二五〇円の収入を得たが、前記のように胸痛、背部痛、腰痛の症状が再発したので再度通院治療を余儀なくされ二月二一日以後休業し、その後昭和四八年三月まで就業していないことが認められ(る。)《証拠判断省略》もっとも、控訴人の本件事故による受傷の部位、程度、症状、通院治療の状況等からみると、控訴人が昭和四六年二月二一日以後昭和四八年三月までの休業がすべて本件事故と因果関係があるものとは認め難く、通院治療の実日数等を基準として本件事故と相当因果関係がある休業期間は昭和四六年二月二一日から一年間(三六五日)に限定するのが相当であると考える。

以上によって控訴人の休業損害を算定すると、

昭和四五年一〇月二二日から昭和四六年一月一四日までの分については

五万円+五万円+五万円×(二四(日)÷三一)=一三万八、七〇九円となり、

昭和四六年二月二一日以後一年分については

(七万六、二五〇円÷三七(日))×三六五(日)=七五万二、一九五円となり、

以上の合計金八九万〇、九〇四円が控訴人の休業損害となる。

(四)  慰藉料

控訴人の受傷の部位、程度、入、通院の状況等本件諸般の事情を考慮すると、控訴人に対する慰藉料額は金五〇万円と定めるのが相当である。

(五)  填補

控訴人が本件損害中金四七万三、八五〇円の填補を受けたことは控訴人の自認するところであるから、これを前記損害額から控除することとする。

(六)  弁護士費用

控訴人は被控訴人に対し、以上の差引合計金一三六万六、三一六円の賠償を求めうるところ、弁論の全趣旨によれば、控訴人は本件訴訟代理人に本訴第一審の訴訟追行を委任し、右訴訟代理人に対し着手金として金四万五、〇〇〇円を支払い、成功報酬として金二六万円の支払いを約したことが認められるけれども、本件事案の内容、訴訟経過、認容額等本件諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用の賠償相当額は総額で金一五万円とするのが相当である。そして、これを加えると被控訴人が控訴人に賠償すべき金額は一五一万六、三一六円となる。

(七)  当審における損害の填補

控訴人が本件損害賠償債権につき昭和五一年八月九日被控訴人から金二万九、三二〇円の、昭和五二年二月四日和解成立前の被控訴人有限会社上野運送店ほか二名から金一〇〇万円の、各弁済を受けたことは控訴人の自認するところである。そして、これを控除すると、被控訴人が控訴人に賠償すべき金額は四八万六、九九六円となる。

四、結論

以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、金四八万六、九九六円及びうち金三八万一、九九六円(弁護士費用賠償額のうち未払い弁護士費用に相当する額金一〇万五、〇〇〇円を控除したもの)に対する本件訴状が被控訴人に送達された日の後であること記録上明らかな昭和四七年四月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては正当として認容すべきであるがその余の部分は失当であるから棄却すべきである。原判決は右認容すべき請求額をこえる請求を認容しているものであるから、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 外山四郎 裁判官 篠原幾馬 鬼頭季郎)

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